創業計画書をAIで作る。数字は自分で出し、AIには「融資の担当者役」で質問させる
日本政策金融公庫の創業計画書は、AIに頼めば数分でそれらしく埋まります。ただし面談で聞かれるのは「その数字はどこから出たのか」です。AIが作った売上予測は答えられません。欄ごとにAIに任せていい所・自分で書く所の判断表、数字を自分で出してからAIに担当者役で質問させる手順、よくある失敗をまとめました。
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結論から言うと、創業計画書でAIに売上や経費の数字を作らせてはいけません。数字は自分で出し、AIには「融資の担当者」の役をさせて、面談で聞かれそうな質問を先に出させる。これがいちばん効く使い方です。
この記事を読み終わると、創業計画書のどの欄をAIに手伝わせ、どの欄を自分で埋めるかを決められるようになります。
※この記事は、日本政策金融公庫が公開している創業計画書の書式と記入例(2026年10月時点)を整理したものです。融資の審査基準そのものは公開されていないため、「こう書けば通る」という話はしません。
なぜ数字をAIに作らせてはいけないのか
日本政策金融公庫(以下、公庫)の創業計画書は、A4横1枚に次の9つの欄があります。
- 創業の動機
- 経営者の略歴等
- 取扱商品・サービス(セールスポイント、販売ターゲット、競合・市場)
- 取引先・取引関係等
- 従業員
- お借入の状況
- 必要な資金と調達方法
- 事業の見通し(月平均の売上・経費・利益と、その計算の根拠)
- 自由記述欄
書式の上には「この書類は、ご面談にかかる時間を短縮するために利用させていただきます」と書かれています。つまり計画書は面談のための下書きです。実際には面談で、書いた内容について質問されます。
ここでAIに「美容室の創業計画書を作って」と頼むと、8番の売上や経費まで、それらしい数字が入った完成品が出てきます。問題は、その数字の出どころを自分が説明できないことです。
公庫が出している記入例では、売上の根拠を「平均単価6,000円×3台×2回転×26日=93万円」のようにかけ算で書いています。1年後の回転数を上げる理由も「勤務時の経験から」と書いてあります。数字の一つひとつに「自分の経験や見積書」という裏付けがある形です。
AIが出す数字には、この裏付けがありません。面談で「2回転の根拠は?」と聞かれて「AIがそう出したので」とは答えられません。もっと悪いのは、AIが「この地域の美容室の市場規模は〇億円」のような存在しない統計をもっともらしく書くことです(AIが平気で嘘をつく理由はこちらの記事で書いています)。
欄ごとの判断表
| 欄 | AIに任せていいこと | 自分でやること |
|---|---|---|
| 1 創業の動機 | 箇条書きのメモを、読みやすい文に整える | きっかけ・理由そのもの |
| 2 経営者の略歴 | 経歴メモから「身につけた技能」の書き方を整える | 勤務先・年数・担当業務の事実 |
| 3 商品・セールスポイント | 他店との違いを言葉にする手伝い、言い回しの案 | 価格、客層、どこから客が来るかの見込み |
| 3 競合・市場 | 「何を調べればいいか」の一覧を出させる | 実際の競合店を自分の足と目で確認 |
| 4 取引先 | なし | 取引先名・支払条件(実際の約束ごと) |
| 5・6 従業員・借入 | なし | すべて(AIに入れる必要もない) |
| 7 必要な資金 | 抜けやすい費目(保証金・広告費など)の洗い出し | 金額。見積書をもとに自分で |
| 8 事業の見通し | 計算式の組み立てを一緒に確認する | 単価・回転数・日数・経費の数字 |
| 9 自由記述 | 文の整え | 書く内容 |
ざっくり言えば、「文章を整える」「抜けを探す」はAIの仕事、「事実と数字」は自分の仕事です。
なお6番の借入状況や、略歴の具体的な勤務先名は、AIに入れる必要がありません。入れる場合も、会社名や金額は「A社」「〇〇万円」に置き換えてください。何を入れていいかの線引きはAIに入れていい情報・ダメな情報にまとめています。
数字を出してからAIに質問させる手順
全体で2〜3時間を見てください。数字を出す部分(手順1〜2)がいちばん時間がかかり、AIの出番はその後です。
- 公式の書式と、自分の業種に近い記入例をダウンロードする。公庫のサイトに、美容業・洋風居酒屋・学習塾・介護サービスなど業種別の記入例があります。セルフチェックリストと「売上高等の計算方法」の参考資料も同じ場所にあるので、一緒に落としておきます。
- 8番の数字を、表計算で自分で出す。売上は「単価×席数(または台数・定員)×回転数×営業日数」のように、かけ算の形に分解します。かけ算の一つひとつに「なぜその数字か」を一言メモします(例:回転数2=前の勤務先での平日の実績)。経費は家賃・人件費・仕入れ・借入の利息・その他に分け、見積書や相場の資料がある物はそれを使います。
- メモ書きの段階で、1〜3番と9番をAIに整えてもらう。「次の箇条書きを、創業計画書の『創業の動機』欄に収まる2〜3行の文にしてください。書いていないことは足さないでください」のように頼みます。最後の一文が大事です。AIは頼んでいない実績や熱意を盛りがちです。
- AIに「融資の担当者」役で質問させる。完成した計画書の内容(名前などは伏せる)を貼って、次のように頼みます。
あなたは日本政策金融公庫の融資担当者です。この創業計画書を読んで、面談で私に聞きたい質問を10個出してください。特に、数字の根拠が弱い所、書かれていない費用、計画どおりにいかなかったときの対策について聞いてください。私の答えは求めないでください。
- 出てきた質問に、自分の言葉で答えを書く。答えられない質問が、計画書の弱い所です。答えるために調べ直したり、数字を直したりします。ここで答えを書けたものは、面談でもそのまま話せます。
- 8番の「利益」が足りているかを確かめる。記入例の注記には、借入の返済元金はこの利益から支払うこと、個人で営業する場合は事業主(自分)の取り分もここに含まれることが書かれています。「利益 − 毎月の返済元金」で、自分の生活費が出るかを電卓で確かめてください。ここが赤字なら、どれだけ文章が上手でも計画として成り立っていません。
手順4の質問は、1回で終わらせず、答えを直したあとにもう一度出させると、2回目は細かい所を突いてきます。AIを「賛成させずに使う」考え方はAIを「壁打ち」相手にするでも詳しく書いています。
よくある失敗と回避策
失敗1:AIの完成品をそのまま出す 文章はきれいでも、面談で深掘りされると答えに詰まります。回避策は、提出前に手順5を必ずやること。自分で答えられない文は、削るか書き直します。
失敗2:売上予測が「なんとなく月100万円」 AIに「月商はどれくらいが妥当?」と聞くと、根拠のない丸い数字が返ってきます。回避策は、売上を必ずかけ算に分解し、一つひとつの数字の出どころをメモに残すことです。
失敗3:必要な資金に費目の抜けがある 物件の保証金、開業前の広告費、開業から売上が入るまでの運転資金などは、抜けやすい費目です。ここはAIが得意です。「〇〇業を開業するとき、見落としやすい費用を一覧にしてください」と聞いて、自分の表と照らし合わせます。ただし金額はAIに聞かず、見積もりを取ってください。
失敗4:AIが書いた「市場」の数字を載せる 「〇〇市の高齢者人口は〇万人で増加中」のような数字は、AIが作っていることがあります。載せるなら、市役所や統計の公式ページで自分で確かめた数字だけにして、出どころを控えておきます。
失敗5:書きすぎて、自分の計画に見えなくなる AIに整えさせると、どの欄も同じような丁寧な文章になります。面談で話す自分の言葉とずれが出るので、整えたあとに声に出して読み、自分が普段言わない言い回しは戻しておきます。
向かない人・向かない場面
- 数字が苦手で、表計算もまだ使えない人:AIで文章を整えても、8番の数字が組めなければ計画書は完成しません。商工会議所やよろず支援拠点など、無料の創業相談窓口で一緒に数字を作ってもらうほうが早いです
- 融資額が大きい、または法人で複数の借入を組み合わせる場合:資金繰りの計画まで必要になります。税理士など専門家に相談してください
- すでに銀行や公庫の担当者がついている場合:担当者に早めに下書きを見せるほうが、AIの予行演習より確実です
融資の条件や必要書類は変わることがあります。申し込みの前に、必ず公庫や取引する金融機関の窓口で最新の情報を確認してください。
まとめ
- 創業計画書は面談のための下書き。面談では「その数字はどこから出たか」を聞かれる
- 売上・経費の数字はAIに作らせず、かけ算に分解して自分で出す
- AIに任せるのは、文章の整え・抜けやすい費目の洗い出し・担当者役の質問出し
- 担当者役の質問に自分で答えられない所が、計画書の弱い所
- 最後に「利益 − 返済元金」で生活費が出るかを電卓で確かめる
補助金の申請書を作る場合は、守るべき決まりが少し違います。補助金の申請書をAIで作っていいかを参考にしてください。