自分で用意する契約書をAIで作る。いきなり条文を書かせず、先に「メールの条件確認で足りるか」を決める
相手が契約書を出してこない仕事や、自分がほかの個人に仕事を頼むとき、「契約書を作ったほうがいいのか」で迷います。AIに頼めば立派な契約書の形はすぐ出てきますが、ひとり事業主に必要なのは長い条文より「お金・範囲・やり直し・やめるとき」の4つが書いてあることです。契約書・発注メール・申込書のどれで足りるかの判断表、条件を先に決めてからAIに書かせる6手順、よくある失敗をまとめました。
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結論から書きます。ひとり事業主が自分で契約書を用意するとき、AIにいきなり「業務委託契約書を作って」と頼むのはやめてください。 先に「今回は契約書が要るのか、メールで条件を確認すれば足りるのか」を決め、金額・作業の範囲・やり直しの回数・途中でやめるときの扱いの4つを自分で書き出してから、AIには文章に整えてもらう。この順番にすると、30分ほどで「揉めたときに役に立つ紙」ができます。
この記事は、取引先から届いた契約書を読む話ではなく、自分から出す側の話です。届いた契約書の読み方は「契約書をAIに読ませていいか」に書いています。
なお、契約や法律の話は事情によって答えが変わります。金額が大きい取引や、相手と揉めそうな取引は、必ず弁護士などの専門家か公的な相談窓口に確認してください。 この記事は、その手前で自分が準備できることの整理です。
AIに「契約書を作って」と頼むと何が起きるか
AIに条件を伝えずに頼むと、だいたい次のような契約書が返ってきます。
- 第1条から第20条近くまである、大企業どうしで使うような長い契約書
- 「反社会的勢力の排除」「準拠法」「合意管轄」など、それらしい条文はそろっている
- そのかわり、肝心の金額・納期・作業の範囲が「○○円」「別途定める」のまま空欄
- 「速やかに」「相当の期間」など、揉めたときに何も決めていない言い回しが多い
見た目は立派ですが、ひとり事業主の小さな取引で揉めるのは、ほとんどが「どこまでが料金に入っていたか」「直しは何回までか」「途中でやめたらいくら払うか」です。ここが空欄の契約書は、何枚あっても役に立ちません。
しかも、長い契約書を小さな取引先に送ると「そこまで疑われているのか」と身構えられることがあります。契約書は長いほど安心、ではありません。
契約書・発注メール・申込書、どれで足りるかの判断表
まず、今回の取引に何を用意するかを決めます。
| 場面 | 用意するもの | 目安 |
|---|---|---|
| 1回きり・数万円まで・相手は事業者 | 条件確認のメール(相手から「了解」の返信をもらう) | 4つの条件が書いてあれば十分なことが多い |
| 継続的な仕事・毎月の定額・数十万円以上 | 契約書(短いもの。2〜3ページ) | 途中解約と支払いの条件を必ず入れる |
| 自分がほかの個人(フリーランス)に仕事を頼む | 発注のメールか発注書(下の9項目を入れる) | 法律で「すぐに・口頭以外で」示す決まりがある |
| 相手が一般のお客様(個人の消費者) | 申込書・利用規約・キャンセルの決まり | 消費者向けの法律が別にある。業務委託契約書のひな形は流用しない |
| 著作物・データ・秘密情報の扱いが大事 | 契約書+専門家の確認 | 権利の行き先はAIのひな形任せにしない |
| 金額が大きい・相手が大企業で不利な条件を出してきた | 専門家に相談 | 自分で作るより、相手の案を読んでもらうほうが早い |
ポイントは2つです。
1つ目は、メールでも約束としては残るということです。「この条件でお受けします」「はい、お願いします」とやり取りが残っていれば、少なくとも「言った・言わない」は防げます。小さな仕事に契約書を作るより、条件を書いたメールを毎回きちんと送るほうが、続けやすく効果も大きいです。
2つ目は、自分が仕事を頼む側になると、決まりが変わるということです。2024年11月から始まったフリーランス法(正式には「フリーランス・事業者間取引適正化等法」)では、従業員のいない事業者が個人に仕事を頼む場合でも、頼んだら直ちに、書面かメール・SNSのメッセージで取引条件を示すことが求められています。口頭だけはだめです。公正取引委員会の特設サイトで示されている項目は次の9つです。
- 頼む仕事の内容
- 報酬の額
- 支払期日
- お互いの名前(屋号)
- 頼んだ日
- 納品してもらう日(作業してもらう日)
- 納品してもらう場所(作業してもらう場所)
- 検査をするなら、その完了日
- 現金以外で払うなら、支払い方法に必要なこと
外注の判断そのものは「AIで自分でやるか、外注するか」に書いています。詳しい運用は公正取引委員会の特設サイトで必ず確認してください。
条件を先に決めてからAIに書かせる6手順
ここからは、契約書(または条件確認のメール)を作る手順です。手順1〜3は自分で、手順4〜5でAIを使い、手順6でまた自分に戻ります。
4つの条件をメモ帳に書き出す(10分) ①金額と支払日(前払いか後払いか、振込手数料はどちらか)②作業の範囲(「やること」と「やらないこと」を両方)③やり直しの回数(2回まで、3回目からは1回いくら)④途中でやめるとき(どちらから、何日前に言えば、それまでの分をいくら払うか)。ここはAIに考えさせません。 自分の商売の値段と手間の話だからです。
前に揉めたこと・揉めかけたことを1つ書き足す(3分) 「急に追加の修正を頼まれた」「入金が2か月遅れた」など。これが、自分の契約書で一番大事な1条になります。
相手の名前・金額以外の個人的なことは伏せる AIに渡すのは条件だけで十分です。相手の会社名や担当者名は「A社」「担当者」に置きかえます。何を入れてよいかは「AIに入れていい情報・ダメな情報」を参考にしてください。
AIに「短く・空欄なしで」と頼む 例:「次の条件で、個人事業主どうしの業務委託契約書の下書きを作ってください。A4で2ページ以内。条件に書いていないことを勝手に足さないでください。足したほうがいい項目があれば、本文に入れずに最後に箇条書きで提案してください。条件:(手順1と2のメモを貼る)」
AIに「揉める読み方」をさせる 下書きができたら、続けて「この契約書を、お金を払いたくない相手の立場で読んで、言い逃れできそうな表現を5つ挙げてください」と頼みます。「速やかに」「必要に応じて」などのあいまいな言葉が見つかるので、日数や回数に直します。
自分の言葉で読み直し、相手に「確認のお願い」として送る(10分) 声に出して読み、意味の分からない条文は消すか、分かる言葉に直します。自分で説明できない条文は、揉めたときに自分を守ってくれません。 送るときは「たたき台です。気になるところがあれば直します」と添えると、相手も意見を言いやすくなります。
手順1〜6で、慣れれば30分前後です。2回目からは前回の契約書を土台に、金額と範囲だけ書きかえれば10分で済みます。
よくある失敗と回避策
失敗1:AIが足した条文の意味が分からないまま送る 「損害賠償の上限」「再委託の禁止」などを、自分で説明できないまま相手に送ってしまうケースです。相手に質問されて答えられないと、かえって信用を落とします。手順4で「勝手に足さない」と指示し、足すなら自分で意味を調べてからにします。
失敗2:消費者向けの取引に、業務委託契約書のひな形を使う 一般のお客様との約束には、消費者を守る法律があり、「理由を問わず返金しません」のような決まりは無効になることがあります。個人のお客様向けは「キャンセルポリシーをAIで作る」の考え方で作ってください。
失敗3:作業の範囲を「ホームページ制作一式」のように書く 「一式」は、相手には「全部やってくれる」と読めます。「トップページと3ページまで」「写真の撮影は含まない」のように、やらないことを書くのが一番の予防です。
失敗4:契約書を作って満足し、条件が変わっても更新しない 途中で料金や範囲が変わったのに、最初の契約書のまま続けてしまうケースです。変わったときは、その都度「○月からこの条件に変わります」とメールを送って返信をもらうだけでも違います。
失敗5:紙に印刷して判子を押し、印紙のことを忘れる 契約書の種類や金額によっては、紙で作ると収入印紙が必要になることがあります。PDFをメールで送って合意する形なら扱いが変わるとされていますが、自分の契約書が当てはまるかは国税庁の案内か税務署で確認してください。
向かない人・向かない場面
- 相手が大企業で、相手の契約書を使うよう言われている人:自分で作るより、相手の案を読んで直してほしい点を伝えるほうが現実的です
- 金額が大きい、または長期にわたる取引:数十万〜数百万円の取引で揉めると、専門家に払う費用より損が大きくなりがちです。最初から専門家に見てもらってください
- 著作権・データの持ち主・秘密情報の扱いが仕事の中心になる人(デザイン、写真、システム開発など):権利の書き方ひとつで後の商売が変わります
- すでに相手と揉めている場合:今から契約書を作っても、さかのぼって効くわけではありません。公的な相談窓口や専門家に早めに相談してください
まとめ
- AIに条件を渡さずに頼むと、長くて肝心なところが空欄の契約書が出てくる
- 小さな取引は、4つの条件(金額・範囲・やり直し・やめるとき)を書いたメールで足りることが多い
- 自分がほかの個人に仕事を頼むときは、フリーランス法の9項目を口頭以外ですぐに示す
- 条件は自分で決め、AIには「短く整える」「揉める読み方をする」の2つを任せる
- 自分で説明できない条文は入れない。大きな取引は専門家に
契約書を受け取る側の話は「契約書をAIに読ませていいか」、お客様向けの決まりは「キャンセルポリシーをAIで作る」、仕事を外に頼むかどうかは「AIで自分でやるか、外注するか」もあわせて読んでみてください。